福岡地方裁判所 昭和44年(レ)15号 判決 1969年10月02日
控訴人 九州スズキ販売株式会社
右代表者代表取締役 内野庄八
右訴訟代理人弁護士 福地種徳
被控訴人 田中啓資
右訴訟代理人弁護士 古賀幸太郎
主文
原判決を左のとおり変更する。被控訴人は控訴人に対し金六万九、二〇〇円及びこれに対する昭和四三年五月一一日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二項は仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人は控訴人に対し金六万九、二〇〇円およびこれに対する昭和四三年四月二七日以降完済迄年五分の割合の金員を支払え、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
(控訴代理人の事実上の陳述)
一、控訴人は自動車の販売を業とする会社であるが、昭和四三年四月三日、被控訴人との間にスズキライトバン(三六〇c.c.)軽自動車一台(以下本件自動車と呼ぶ)について左記の約定で売買契約を締結した。
(1) 代金 金三四万六、〇〇〇円
(2) 代金支払方法 頭金一〇万円を車引渡日に支払い、残金二四万六、〇〇〇円並びにこれに対する支払完了時迄の利息金二万四、〇〇〇円の合計金二七万円を昭和四三年五月三〇日に内金一万七、〇〇〇円、同年六月より同四五年四月迄毎月三〇日に一万一、〇〇〇円宛、分割して支払う。
(3) 物件引渡時期 昭和四三年四月二六日
二、控訴人は右契約に基づいて本件自動車について登録を完了し被控訴人に対し前期引渡期日に提供した。
三、被控訴人は受領を拒絶し代金の一部たる頭金一〇万円を支払わないので控訴人は昭和四三年五月一〇日ごろ被控訴人に対し本件売買契約の解除の意思表示をした。
四、よって被控訴人は、控訴人に対し次のとおり損害を与えたものである。即ち通常の場合、自動車が運行のため登録されるとその時点で取引上いわゆる中古車として扱われ商品価格が二割逓減し、他に売渡すとしても本件自動車だと金三四万六、〇〇〇円の価格が金二七万六、八〇〇円に低落し、よって六万九、二〇〇円の損害が発生したものである。
五、そこで控訴人は被控訴人に対し損害金六万九、二〇〇円及びこれに対する代金第一回支払期日の翌日たる昭和四三年四月二七日より完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。
被控訴人の抗弁を否認する。
(被控訴代理人の事実上の陳述)
一、請求原因第一項中控訴人主張の頃本件自動車一台を買受ける契約をしたことは認めるが、その他は否認、第二項は不知、第三項以下は否認する。
二、昭和四三年四月二四日頃本件自動車引渡期日を同年五月初頃と約したにも拘らず、控訴人が右約定に反して同年四月二五日に本件自動車の登録を完了したものである。
三、仮に右事実が認められないとしても、本件売買契約を同年五月一〇日頃、控訴人の代理人上田昌幸と被控訴人間において、被控訴人が売買契約の際交付した金一万四〇円の返還請求権を放棄して合意解除した。
(証拠関係)≪省略≫
理由
一、自動車の修理販売を業とする控訴人会社が昭和四三年四月三日被控訴人に対し本件自動車を売ると約束したことは当事者間に争がない。
二、≪証拠省略≫によれば、
1 右契約の際売買代金額およびその支払方法を控訴人主張のとおり約束し、自動車の引渡時期を同月末と定め、被控訴人は同月末までに被控訴人方店舗の一部を改造して車庫を新設し自動車を引取ると約束した
2 被控訴人は控訴人に対し買受自動車の自動車損害賠償責任保険加入保険料、自動車使用届出手数料等として金一万〇、〇四〇円を支払った
以上の事実が認められる。≪証拠判断省略≫
そうすると控訴人は本件自動車について被控訴人名義で使用届出をした上同月末までに引渡すべく被控訴人はこれと引換に頭金一〇万円を支払うと約束したものと解される。
三、さらに≪証拠省略≫により被控訴人は菓子製造販売を業とするものであることが認められるので右売買は被控訴人の営業のためにしたものと推定すべきである。
四、≪証拠省略≫を綜合すれば、
控訴人会社は同年四月二五日までに前記使用届出の手続をすませた上被控訴人に右自動車の引取方を求めたところ、被控訴人は二、三日の猶予を求めた後控訴人に対し同自動車を買わないと申し出てその受領を拒絶し、他方妻の実家の懇請によりその関係先販売店より本件自動車と同銘柄の自動車を購入したので、控訴人会社係員は同年五月一〇日被控訴人に対し売買契約を解除しこれによって生じた損害の賠償を求めると通告した
事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
五、被控訴人は控訴人代理人上田昌幸との間で合意解除をしたと主張し、右被控訴人と右田中恵子の供述中に上田との間にその趣旨の話合をしたとの部分があるけれども、これは≪証拠省略≫に照すとき、その趣意は判然としたものと認め難いのみならず、上田に控訴人会社を代理する権限があったことを認め得べき証拠がないから、右抗弁は理由がない。
六、被控訴人は控訴人に対し損害賠償をすべき義務があるところ、≪証拠省略≫により、通常の場合新車でも運行のため登録又は使用届出をすると取引上いわゆる中古車となり、その時点で商品としての価格が二割逓減し、本件自動車の場合金三四万六、〇〇〇円の価格が金二七万六、八〇〇円に低落したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠がない。従って、控訴人は本件自動車価格の低落分六九、二〇〇円の損害を蒙ったものというべきである。
七、ところで本件売買契約は割賦販売法所定の指定商品の売買契約であるから割賦販売法六条との関係で、控訴人の賠償請求し得る損害額が問題となるが、同条において賠償額を制限するゆえんは、契約に当り、経済的に優越的地位にある売主にとって有利な約定が結ばれることにより、約定損害金、違約金の名目で、買主の犠性において売主に過当な利益を収受せしめることを防止する目的に出たものと解せられ、同条三号において、契約解除が商品引渡前になされた場合賠償額を契約締結及び履行のために通常要する費用額に制限するのも、通常商品引渡前は、売主の契約上の義務は未だ果されず、従って売主において現実に被ることあるべき損害が右各費用相当額であることに着目して賠償額をこれに限定したものであるから、同条の趣旨は、本件の新規使用自動車売買の如く、登録または届出が売主の義務の履行の不可欠の一部であり、かつ、これが履行された後買主の義務不履行による契約解除の結果、現実に売主において右履行に伴い通常生ずべき価格低落による減価額相当の損害を被っている様な場合にまで、その賠償請求の権利を売主から奪う趣旨とは解し難く、売主の義務の典型たる商品引渡がなされなくとも、その履行の前提たる登録または届出がなされたときは、商品引渡及びその返還がなされた場合に準じ、同条一号を類推して右登録または届出による減価額相当の損害を同号所定の通常の使用料の額として売主はその賠償を請求しうるものと解するのが相当である。
八、そうすると控訴人の請求中右価格低落分六万九、二〇〇円とこれに対する請求の翌日たる昭和四三年五月一一日以降完済迄年五分の割合の遅延損害金の支払を求める部分は正当として認容すべきであるがその余は失当として棄却すべきである。
よって一部これと結論を異にする原判決を変更することとし、民訴法三八六条九六条九二条一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 安東勝 裁判官 渡辺惺 蜂谷尚久)